同じ速さで、地面を踏み蹴る、前を行く靴底
元々同じテンポなのか、それともやはり、隣の銀の髪の少年が金髪の少女のそれに合わせているのか
少し、視線を上げていった
重なる 手
触れるか触れないかの距離にある、二つの手のひら。
当たらぬ距離、だが、あと数センチ近づけば、それらは簡単に触れ合うだろう。
触れ合う。
…手を繋ぐ。
彼らの後ろを、並んで歩いているシンジとレイは、手を繋いで歩く事はほとんどなかった。
レイは前の二人……近い距離にある二つの手を見てぼんやりと思った。
自分も彼らのように触れたい…、と。
だが、昔のあの頃より、心の距離は近づいてるというのに。
……あの時のように、触れていいかと聞くことが出来ない。
恥ずかしいのだ。
拒絶の言葉はきっと出ない。彼は優しいから。理由はないから。
が、それを口にするのが、言葉という形で相手に伝えるという行為が、何故か酷く恥ずかしい。
……とても触れたいのに。
そんな風に、レイが浅い思考に心を浮かべていると、視界に入れていた前の二人の、片割れが動いた。
歩みに合わせて動いていた大きめの手のひらが、華奢なそれと不意に触れ合う。
ぴくっ、と微かに、だがわかるくらいに揺れる彼女の手。
更に、伸びた手のひらが彼女のそれと重なり、絡み捕られるようにして握られた。判るくらいにしっかりと。
声にならない驚きに目を見開き、隣へと顔を向ける彼女の頬は赤い。
そんな彼女に向けられるのは、凪いでいるような優しい彼の紅い瞳。
「……どういうつもり?」
彼女の細くなった碧い瞳が、一瞬こちらへと向けられる。
「僕が繋ぎたいからだよ? …離すつもりはないからね」
にこっ、と人当たりの好い笑みを浮かべている彼と、ますます目つきが険しくなる彼女。
「なんでよ?」「だって、こうした方が…」と、始まった二人のいつものやり取りを遠くに聞きながら、レイはまた繋がれたままの手に視線を注ぐ。
羨ましい、と思った。
相手の温もりを、素直に求められる彼が。
そうやって相手に、求められる彼女が──
「…ッ」
びくっと、そこに何か飛びついて来たのかと思って、レイは震えて、自分の手に目を移した。
もう何もなかったが、暖かいものが一瞬、そっと触れたのを確かに感じていた。
すぐに、当たったものの正体がわかって、少しずつ視線を上げていく。隣にある手首、腕、肩へと。
そうやって、漸く見えたのは、頬を赤く染めているシンジの顔だった。
視界の端に見える、所在なさげな手の動き。
「ご…ごめん…。当たったみたいだね…」
無意識に、レイが手を伸ばしたのだろうか?
それとも……?
「……綾波」
少し、緊張したような声が降りてくる。
「……何?」
「僕達も……手、繋ぐ?」
落とした視点。瞳に映ったのは、こちらへ向けられた、彼の手のひら。
「……ええ。繋ぎたいわ」
簡単に、言葉が零れ落ちた。
そっと、ゆっくりと手を伸ばす。
同じように、向かいからも手が伸びてくる。指先が触れ、更に進んで、重なるてのひら。
そこから伝わる、互いの体温。
彼の指が、壊れ物を扱うように緩く手を取ると、自らも、同じように僅かだがその指を折り曲げた。
繋がれた手を見つめてから、顔を上げると、はにかんでいる彼の姿。
「……どうしたの?」
「あ、いや…。綾波、今凄く嬉しそうに笑ってたから…」
気が付かなかったが、知らず微笑んでいたらしい。
そういえば、いつから自分達は立ち止まっていたのか。
前を歩いている二人と、距離がどんどんと離れつつあった。
「二人とも…僕達の事、全然気が付いてないね…」
遠くを歩く二人を見て、苦笑いの表情を浮かべる彼。
「仕方が無いわ。二人はお互いしか見えてないもの」
……人のことは、全く言えた事でないのだが。
「はは。綾波の言う通りだ。とりあえず…二人に追いつこうか?」
そう言って、駆けようと足を踏み出した彼の手を軽く引く。
綾波…?と、不思議そうにこちらを見つめる彼に、今度は意識して微笑んだ。
「このまま、歩きましょう? 気がついたら二人とも、きっと待ってくれるわ」
お願い しばらく気が付かないで
その間だけ 碇君 すぐ傍に居る貴方だけを感じられるから
貴方と私 二人だけで居れるから…
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