寒い中で、寄り添って体温を共有する事は、暖かい中に一人で居るより心地好く感じるものだ。
 彼にとって。
 そして、彼女にとってもそうなのだろう。




 ふたりぼっち






 夏だと暑いだの、汗で手がべたついて気持ち悪いだのと言って怒鳴るアスカなのだが、冬場になると一転して指先が冷たいし寒いから、といつも払う手を掴んで離さない。
 こういう時、外に居る場合だと調子に乗って肩を抱いたりしたら、見せびらかせたいバカップルに見られるでしょ、バカ!と、知っているのかと疑いたくなるような程正確に、眉間か顎を狙ってストレートを繰り出してくる。
 が、どちらかの部屋で二人しか居ないとわかっていると、カヲルがその手を一度離し、正面からアスカの腰を抱いて引き寄せても強くは抵抗しない。
 バカとか何すんのよ、と言葉は相変わらずだが……いつもの勢いがないので、カヲルは頬を、アスカのそれにすり寄せる。
 その頃には、彼女も多少は大人しくなっていて、すぐ前に居る存在に心を傾けている。
 目を閉じて、すぐ傍の体温を感じながらカヲルは耳を澄ませた。
 降り積もる外の雪が細かな雑音を消してくれているので、お互いの呼吸しか耳に届かない。

「……アスカ」

 想いを込めて、静かに囁く声があまり広くない室内に響いた。

「…何よ」
「心地好い温かさだね」

 カヲルは頭を少し傾け、耳の裏に鼻を寄せた。途中、吐息が掛かってしまったのかアスカの肩がぴくりと跳ねる。

「あたしは…暑くなってきたわよ」
「僕がこうしてるから?」

 声が近すぎて、アスカの鼓動が更に早まる。
 ……分かっているのに、わざわざ確認してくるなんてずるいと思った。

「……暑い。暑い暑い暑い暑いあついあついあつい」
「フフ……どうやら十分温かくなったみたいだね。なら、そろそろ離れようか?」
「………」

 アスカの声が途切れた。
 確かに少しは暑いのだが、彼女は照れ隠しに言っているのだ。離して欲しいとは思っていなかった。
 だが、彼の方は本気で聞いているのかどうか分からない。
 勢いで頷いて、そうか、と呟きと共に彼が離れてしまうのが、彼女は嫌だった。

「…………」
「…もう少し、こうしていようか」

 カヲルは彼女の首筋に一つ、キスを落とした。黙っているアスカの気持ちに気がついたらしい。
 腰に当てていたうちの片手を、背までゆっくり滑らせるとぎゅうっと身を寄せる。
 少し緊張していたらしいアスカの、息を詰まらせたような声が微かに聞こえた。


 また音が消える。
 カヲルは細く開けた目を床に落とし、淡い光が雪に反射し、白く照らされた床に浮かび上がる一つになった青く黒い影を見つめた。
 白い世界。二人の呼吸しか聞こえない、切り取られたセカイ。


──世界には今、誰も居なくて……僕達は最後の男と女なのかもしれない


 一瞬ではあったが、そういった妄想に捕らわれた己を恥じて、カヲルは自嘲に歪めた顔をアスカの髪に埋める。漏れそうな笑みは、唇を噛んで堪えた。
 少しばかり、何かのテレビか雑誌に影響されてしまっているようだ。
 だが……カヲルは、アスカとならふたりぼっちになっても構わないと思っている。
 人一倍寂しがりなアスカは絶対に嫌がるだろうから、例えにしても口には出すことはないが。


 君という存在が、消えないのならば。
 君という存在が、僕の傍に居てくれるならば。
 君という存在が……この腕の中から、居なくならないのならば。











──この先、セカイがどうなっても僕は……