「……一生の不覚だわ」
「最初に呼んだのが、日向さんだったからね……。予想も出来なかったんだから、仕方が無いんじゃないかい?」
「仕方が無い…、じゃすまさないわよ! 大体、何考えてんのよ、そこの二人!!」

 そう言うアスカの制服のスカートからちらりと見えるのは、ふさふさした犬のものと思われる『しっぽ』
 彼女はかなり不機嫌な表情で腰に手を当てると、リツコ、ミサト両人を睨みつけた




 しっぽ





「私の好きなネコは、レイでやってしまったから。後は犬でしょう?」
「いや、だってさー。女の子キャラってネコとうさみみばっかじゃない? だからたまには違う趣向でいくのもいいと思ったんだけど?」

 ……全くもって、反省の色の見えることの無い、二人の発言。

「何ワケわかんないこと言ってんのよッ そ・れ・に! やりたきゃ自分で実験しなさいよ! 人を実験台にするんじゃないわよッ!」
「……まあまあ、アスカ。終わってしまった事だし、許してあげなよ」

 宥めるようになでなで、と後ろからアスカの頭を撫でるカヲル。

「あんたはあんたで、何甘い事言ってんのよ! 言っとくけど、あんたも同罪なんだからね! 気付いてたんなら、さっさと言いなさいよッ!」
「仕方ないだろう? 僕が紅茶を飲もうとする前に、君は半分も飲んでいた後だったんだから」

 まあ…、とカヲルは一旦言葉を区切る。
 頭を撫でていた手は、そのままアスカに乗せられている。

「……僕は犬、好きだけどな?」
「な…。なにバカな事言ってんのよ! それで慰めてるつもりなの!?」

 アスカはぱっと、頭に乗せられた手を払いのけると、カヲルに向き合い、大きな声で更に怒鳴りつけた。
 ……と、何故か後ろで、くすくす笑う声が聞こえてくる。
 アスカは眉をひそめ、後ろのミサトらを凝視する。

「…ちょっと。なに笑ってんのよ?」
「あー…これはちょっちいいかもー」
「ふふ…。これはあなたに似合うわね」

 ニヤニヤ、と心底楽しそうに笑う二人。
 不審そうに見ていると、怒鳴られていても平然としていたカヲルがああ、と小さく呟く。

「多分、コレかな?」
「? 何よ、カヲルはわかったの?」
「うん。……ほら」

 言い終わるなり、カヲルはアスカを正面からぎゅっ、と抱き寄せた。
 一瞬、アスカは何が起こったかわからず、目を瞬かせる。

「ッ! なにすんのよ、バカッ! 離して!!」

 ようやく彼女が自分の状態に気付き、真っ赤になって喚いていると、また後方から笑い声が聞こえる。
 今度も、とても愉快そうだ。

「あははははッ! いやー、カヲル君! やるぅ!」
「ミ、ミサト…。あんまり笑ったらアスカが可哀想よ……」

 お腹を抱えて笑うミサトと、口に手を当て笑いを必死に堪えるリツコ。
 イマイチ状況が把握できないアスカ。
 彼女はとりあえず、笑う両人を睨みつけてやろうと、顔だけをなんとか後ろの方に向ける。
 その視界の下の方で、茶けた何かがちらちら見えた。

「…げぇッ!?」

 そういえば、怒りのあまり、後ろに『ソレ』がついている事をすっかり忘れていた。
 そして、『ソレ』の意思表示を。

 ……ぱたぱた、としっぽを振っていた。
 スカートを揺らしながら、とても嬉しそうに。

「…ッ!!!」

 真っ赤になって、慌ててスカートをおさえようとした。
 だがカヲルに腕を回されている状態で、それも叶わない。

「アスカ。……素直なキミも、とても可愛いよ?」

 ふいに、耳元で優しく囁かれ、一時思考が停止する。

「…ッ な、なにバカな事言ってんのよ、このバカカヲル!!」

 再び大声で怒鳴るが、顔は赤いし、しっぽはぱたぱた振られているので説得力は皆無に等しくて。

「フフフ。ほら、本当は嬉しいんだろう?」
「ちーがーうーッ! あんたねぇ、あんまり調子に乗ってると後でぶっ飛ばすわよ!」
「なら、なんでしっぽを振ってるんだい?」
「うう、う、うるさいわねッ! そんなの知らないわよ!!」

 このやり取りに、ついにリツコも可笑しそうに笑い出した。


 ……このよくわからない騒ぎはネルフ副指令、冬月コウゾウが近くを通るまで続いたとか。




 …続かない。